実家の本棚

もう何年も前から母親が家を建て直したいと言っていたのですが一向に実行される気配がなく、また父親がさほど乗り気でなかったこともあって「親父が生きているうちは大丈夫だろう」とたかをくくっていたのですが、しばらく近寄らないうちにあれよあれよと具体化してゆきどうやら今年中にも取り壊しが始まる気配。ここに至ってはやむをえません、実家に預けてある本をひきとるか処分するか、この狭いアパートに数千冊の本を持ち込むことはどう考えても現実的ではないのでまずは圧縮することにして家人と二人タオルとマスク、それからハタキ持参で実家に向かうことに。(汗だくになることは目に見えているので飲み物も持っていこうかとも思ったのですが肉親なのでそれくらいのサービスは要求してもよかろうと持ち込まず)
学生時代に購入した本がメインであとはこちらの住処にある程度たまってくるとこっそり持ち込んでいたのですが本棚だけでなく押入れにダンボール詰で隠してあるものもあるので総数は全く把握していません。おまけに二親とも本棚をただの壁と認識しているようで前に様々なものが置かれて奥のほうは人類未踏の地に近い状態であったためいざ邪魔物を移動させ本棚に向き合った時には埃の山、ついでに窓際あたりは湿っぽいという最悪の環境。埃に埋もれかけた本を見るだけで家人のテンションは下がっています。これを全部古本屋さんへ持ち込むのも気が引けるためとりあえず買い取ってくれそうなものと資源にしかならないものに振り分けることにして作業開始。湿気たマンガやミステリは泣く泣く資源です。あとは埃を払い残すものと売るものへ分別。物珍しいのか兄が連れてきている甥たちが部屋にやってきて暴れまわります。時には本の山を崩すことも……勘弁してよ。さらには妹が姪たちを連れて顔出し、どんどん収拾つかなくなっていきます。
そんな中でも家人はこちらの指示に従いペースを落とさず本をひもで縛ったり箱につめたり黙々と作業をしてくれます。これではどちらの本を整理しているのだかわからない有様に。本当に頭が下がりますが到底すべてやり終えることはできずある程度めどが立ったところで本日の作業終了。取り壊しの日まであと何回やらなければいけないのでしょうか。

しかも懲りずにまだ本を買う日々。

伊良子清白『孔雀船』岩波文庫
遠藤周作『切支丹の里』中公文庫
筒井康隆編『ネオ・ヌルの時代2』中公文庫
野坂昭如童女入水』中公文庫
野呂邦暢『兵士の報酬』『小さな町にて』みすず書房
河上肇自叙伝』全5巻 岩波文庫
加藤一雄『日本近代の絵画』河原書店
島田潤一郎『あしたから出版社』晶文社

個々の本について、特に夏葉社・島田さんが書いた『あしたから出版社』については書きたいことがたくさんあるのですがそれはまたの機会に。

かわうそが三匹

読み終えた出久根達郎かわうその祭り』を傍らに置きつつPCを開いていると、背後の息子の部屋から家人と息子の苛立った声が。昨日この本を手にかわうその祭り、つまり獺祭の意味について教えたので早速我が家のかわうそ退治に乗り出したようで、床に散らかった教科書やプリントの整理に乗り出したようです。「これもう使わないでしょう」とか「終わったらちゃんと元のところに戻しなさい」という言葉に無駄な抵抗を試みる息子、そのバトルと背中で感じながら二匹目のかわうそである自分はいつこちらに飛び火してくるのかドキドキしています。戦利品を並べるのはこれ古本好きの常です。皆さんはどのように家庭内のかわうそバスターから逃れているのでしょうか。御教授くだされば幸いです。
ちなみに三匹目のかわうそは義父。メモ魔でもあり常に書き物をしているせいで机の上はすごいことになっております。あれも見れば自分はまだましだな。何しろ息子や義父と違って自分の部屋というものが存在しないのだから。

再開

誰も待ちわびていないと思うのですがW杯も始まったことだし(何の関連もありませんが)ブログ再開。3カ月のブランクのあいだに買った本は下記の通りということであまり変わり映えのしない日々を送っていたことは容易に想像できるでしょう。つまりただぐうたらしていただけだと……。

荒俣宏『別世界通信』ちくま文庫
開高健『眼ある花々』中公文庫
片岡義男『彼のオートバイ、彼女の島』『幸せは白いTシャツ』『湾岸道路』『メイン・テーマ1』『タイプライターの追憶』『ボーイフレンド・ジャケット』『離婚しました』『ボビーに首ったけ』新潮文庫、『香水と誕生日』講談社文庫、『彼女が演じた役』早川書店
上林暁極楽寺門前』筑摩書房、『幸徳秋水の甥』新潮社、『半ドンの記憶』集英社
黒川創『国境 完全版』河出書房新社
小林泰彦イラストレーターは現代の絵描きだ』CBSソニー出版
佐伯彰一『近代日本の自伝』中公文庫
坂崎重盛『TOKYO老舗・古町・お忍び散歩』朝日文庫
佐藤優『インテリジェンス人間論』『功利主義者の読書術』新潮文庫、『人たらしの流儀』PHP文庫、『国家の崩壊』角川文庫、『神学部とは何か』『神学の履歴書』新教出版社、『宗教改革の物語』角川文庫
佐野眞一『ニッポン発情狂時代』ちくま文庫
出久根達郎佃島ふたり書房』講談社文庫、『かわうその祭り』角川文庫
林望『いつも食べたい!』ちくま文庫
丸谷才一後鳥羽院筑摩書房
ポール・アルテ『七番目の仮設』『虎の首』ハヤワカミステリ
森岡督行『荒野の古本屋』晶文社
古山高麗雄『やばい関係』集英社
リチャード・パワーズ『幸福の遺伝子』新潮社

村上春樹や赤川次郎と並んで

「BOOK5」の特集に影響されて片岡義男漬けに。そうですミーハーな影響されやすい男です。とりあえず見つかるだけ買おうと各務原、北方、美濃加茂、江南のブックオフを回りました。角川文庫だけで100冊近く出ていたような気がするので80年代から90年代にかけては村上春樹よりずっと読まれていたはず……そのイメージからするとブには赤川次郎並に棚に並んでいるような気がしたのですがいざ意識して探してみると思ったより見つかりませんでしたね。20冊も見つかりませんでした。皆処分することなく押入れにでも入れたままなのでしょうか。確かにブに売りに行くのもちょっと恥ずかしい気分にさせる作家ではあります。
というわけでその他も合わせて買った本は下記の通り。

片岡義男『スローなブギにしてくれ』『美人物語』『ドライ・マティーニが口をきく』『ふたとおりの終点』『ラストシーンの出来ばえ』『私は彼の私』『今日は口数がすくない』『魚座の最後の日』『恋愛小説』『きみを愛するトースト』『彼らに元気が出る理由』『恋愛小説2』新潮文庫、『あの影を愛した』新潮文庫、『赤い靴が悲しい』祥伝社文庫、『撮られる彼女たち』光文社文庫
江口寿史『キャラ者』双葉社
中島梓『わが心のフラッシュマンちくま文庫
ジョン・ダニング『愛書家の死』ハヤカワ文庫

人も本も

おそばせながら1月に出た「BOOK5」11号をようやく購入。この雑誌は私にとって「彷書月刊」が休刊後の喪失感を補って有り余る、隔月と言わず毎月出てほしい雑誌です。今回の特集は片岡義男。角川文庫の赤い背表紙が懐かしい。10代のころバイクに乗りたいと思っていたのはきっと片岡義男の影響です。残念ながら二輪免許取りそびれましたが。あの本たちまだ実家にあるのだろうか。リレー連載の「本屋さんへの道のりで」は江東区森下の古書ほんの木さんが書いています。東京にいた八年間のうち半分は清澄白河に住み、森下に職場があったので懐かしすぎます。あのころは全然なかった古本屋が現在は7店舗もあるなんて岐阜に戻ってくるのが早すぎたかなとちょっと後悔。のらくろ〜ドには勝山書店という小さな新刊書店がありここでタウン誌「深川」などを入手していたのですがまだあるのかな。ほんの木さんが紹介しているところ以外にこの地域のおすすめとしては建築物。清澄長屋が清澄寮などが今なおモダンさを発揮していますし、新しい建物でもヨーガンレールが蔦におおわれてオシャレで散歩していて思わず足を止めてしまいます。これで古本屋もあるのだから最強の街の一つになりましたよ。
先日の出張では立ち寄れませんでしたが次回こそは久しぶりに歩いてみたいものです。
というわけで最近買った本は下記の通り。『佐藤泰志 生の輝きを求めつづけた作家』には岐阜の詩人金子彰子さんも書かれています。『野尻抱影』は神保町のスーパー源氏古書モール店の岡崎武志堂の棚から買ったもの。佐藤泰志は岡崎さんの著作から存在を知り、金子彰子さんも岡崎さんを通じて知り合いになったのでした。人も本も次々とつながっていきます。ありがたいことです。

福間健二監修『佐藤泰志 生の輝きを求めつづけた作家』河出書房新社
「BOOK5」11号
荒俣宏パラノイア創造史』ちくま文庫
出久根達郎『犬大将ビッキ』中公文庫
花森安治『暮しの眼鏡』中公文庫
石田五郎『野尻抱影』リブロポート
仲畑貴志『この骨董が、アナタです』講談社文庫
藤沢周平『小説の周辺』文春文庫
吉田健一『私の食物誌』中公文庫
「古本屋」終刊第10号

欽ちゃんナンパ事件

足立巻一『関西人』弘文堂新社
小林信彦 萩本欽一『ふたりの笑タイム』集英社
坂崎重盛『ぼくのおかしなおかしなステッキ生活』求龍堂

雪は姿を消したが風が強い日曜日。昨日の会議や書類作りでぐったり疲れたため一日引きこもっていました。あれ、先週もそうだったような。寒いとどうしても出不精になります。早く暖かくならないかな。
上記の本の購入は目録とネットで。
足立巻一は鹿児島銘菓とともにやってきました。ページをめくると著者のサインが。目録には書いてなかったのでこれは得した気分。書肆HのAさん、いつもありがとうございます。
小林信彦萩本欽一の本は、お笑いの生き字引たる小林と生き証人の欽ちゃんによる裏話。小林の話はすでにどこかで書かれた内容が多いものの欽ちゃんが間の手を入れることでまた違った面白さがあります。
ところで我が家で欽ちゃんと言えば必ずネタになるのが若き日の母が声をかけられてお茶をしたという「欽ちゃんナンパ事件」
まあ正確に言えばナンパではなかったようで、今とは全然違う賑わいを見せていた昭和四十年代の柳ヶ瀬を友人たちと歩いていたところ友人の一人が発見。「あれってコント55号じゃない?」とちらちら見ていたところ、欽ちゃんのほうから声をかけてきてコーヒーをおごってくれたようです。翌日はついこの前強制執行された名古屋の大須演芸場に招待されたようですが母は所用で行けず友人たちは楽屋まで入れてもらって大満足だったとのこと。ちなみに多分二郎さんも一緒にいたと思われるのですが母の話には一切出てきません。

コンタンポラン

黒岩比佐子『忘れえぬ声を聴く』幻戯書房

評伝作家にして無類の古本好き黒岩さんの単行本未収録エッセイ集が出ました。2010年の早すぎた死からもう黒岩さんの作品は読めないのかと残念に思っていたのでこれはうれしい一冊。
「いくらずうずうしくても、私は百年後まで生きるつもりはない」と自らの運命を知らず書いた文章がありますが、ずうずうしく書いていてほしかった。まだまだ書きたいことはいっぱいあったでしょうがこちらもまだまだ読みたかった。

もし抽斎がわたくしのコンタンポラン(同時代人)であったなら、二人の袖は横町の溝板の上で摩合ったはずである。(森鷗外渋江抽斎』)

宮仕えの医者であり無類の書物好きとして共通点の多い抽斎と鴎外が時代を共に過ごしていたら袖をすりあうどころではなくきっと時間も忘れて話し込んだに違いありません。鴎外の中でも特に知られた一文だと思いますが、黒岩比佐子さんのブログでの即売会の話などを読むといつものこの文章が頭に浮かびました。言葉を交わしたことはなくてもきっと神保町や古書会館ですれ違っていたに違いありませんから。古本好きとして評論好きとして私にとってコンタンポランでした。

そのほか購入した本。
朝比奈隆『この響きの中に』実業之日本社
蜷川譲『パリの宿』麗澤大学出版会
ピーター・フランクル『数学放浪記』晶文社