コンタンポラン

黒岩比佐子『忘れえぬ声を聴く』幻戯書房

評伝作家にして無類の古本好き黒岩さんの単行本未収録エッセイ集が出ました。2010年の早すぎた死からもう黒岩さんの作品は読めないのかと残念に思っていたのでこれはうれしい一冊。
「いくらずうずうしくても、私は百年後まで生きるつもりはない」と自らの運命を知らず書いた文章がありますが、ずうずうしく書いていてほしかった。まだまだ書きたいことはいっぱいあったでしょうがこちらもまだまだ読みたかった。

もし抽斎がわたくしのコンタンポラン(同時代人)であったなら、二人の袖は横町の溝板の上で摩合ったはずである。(森鷗外渋江抽斎』)

宮仕えの医者であり無類の書物好きとして共通点の多い抽斎と鴎外が時代を共に過ごしていたら袖をすりあうどころではなくきっと時間も忘れて話し込んだに違いありません。鴎外の中でも特に知られた一文だと思いますが、黒岩比佐子さんのブログでの即売会の話などを読むといつものこの文章が頭に浮かびました。言葉を交わしたことはなくてもきっと神保町や古書会館ですれ違っていたに違いありませんから。古本好きとして評論好きとして私にとってコンタンポランでした。

そのほか購入した本。
朝比奈隆『この響きの中に』実業之日本社
蜷川譲『パリの宿』麗澤大学出版会
ピーター・フランクル『数学放浪記』晶文社